研究者インタビュー

文系・理系の垣根を越えて学び続けるために

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大学を活用して学び続けていただきたい

 私が科学に関心を持ったのは中学時代です。ジョージ・ガモフという物理学者が青少年向けに書いた『1,2,3…無限大』という本がたいへん面白くて、高校にかけてガモフの全集を読みました。その影響から「宇宙の果て」や「時間の始まり」について学ぼうと大学は物理学科を選んだのですが、実際の物理学では手足を動かして実験することが重要な部分を占めています。そこではじめて「自分がやりたかったのは哲学だった」と氣づかされ、大学院では専攻を哲学に変えました。

 自然科学と違って、哲学でははっきりと結論が出て終るということはありません。論文を書いた後でも、「本当にこれで良かったのか」「他の考え方もあるのでは」と考え込んでしまいます。また、それが哲学の魅力だと言うこともできるでしょう。

 日本の教育では、高校で早々に文系と理系が分かれてしまいます。しかし、今日では人文・社会科学も自然科学の知識なしには成り立ちませんし、先ほど述べたように、自然科学の研究者にも人文・社会系の知識が必要です。東北大学では昨年度から、文科系の学生を対象にした「自然科学総合実験」という授業を始めました。自分で実際に実験をしながら科学の本質を学んでもらおうという内容で、今年は70~80人が履修している人氣科目です。

 また、日本では18歳で大学に入学して4年で卒業するのが標準とされていますが、米国では社会人を経験してから入学することが普通に行われています。最近では日本でも多くの社会人が大学や大学院で学ぶようになり、かつてに比べ、市民が学び続ける環境は整ってきました。

 大学も、公開講座や出前授業の開催などに積極的です。東北大学では自然科学系の「サイエンス・カフェ」に加え、昨年からは人文・社会科学系の「リベラルアーツ・サロン」を始めました。いずれも研究者の話を一方的に聞くだけでなく、いくつかのテーブルに分かれて座った市民の方々に大学院生が加わって討論する双方向のスタイルをとっています。また、私は現在大学の附属図書館長を務めていますが、ご登録いただければ閲覧はもちろん、資料の貸し出しも可能なことをご存じでしょうか。お仕事を退かれた方や、子育てを終えられた方々に、もっと大学を活用していただきたいと思います。きっと、人生を豊かにするきっかけになるはずです。

 私たちは学ぶことで、使うことのできるボキャブラリー(語彙)が増え、より深く考えたり、一面的でないさまざまな角度から考えたりすることができるようになります。ご自分の興味のあることから学び始めれば勉強は面白いものですし、効果も上がるはずです。ご自身に合った入り口を、ぜひ見つけていただきたいと思っています。

 (取材=2010年5月11日/東北大学附属図書館・館長室にて)

研究者プロフィール

東北大学大学院文学研究科・文学部教授

科学哲学

野家 啓一 先生

(のえ・けいいち)1949年宮城県生まれ。東北大学理学部物理学科卒業。東京大学大学院科学史・科学基礎論博士課程中退。理学修士。南山大学専任講師、プリンストン大学客員研究員などを経て、1991年より現職。2008年より東北大学理事、附属図書館長。専攻は科学哲学。

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