研究者インタビュー

「動物園」は、大人にとっても「学び場」です

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動物がのびのびと暮らす現在の動物園

 昨年の東日本大震災では本園も窮地に陥りました。サル山が損壊するなど施設にも被害が出たのですが、それ以上に停電、断水、暖房用の燃料不足、そして餌不足に悩まされたのです。中には体調を崩した動物もいました。しかし市民の皆さんや全国各地の動物園、水族館や動物園ファンの皆様などから多大なご支援をいただき、また職員が一丸となって復旧に献身的に取り組んでくれたおかげで、4月23日に再開園にこぎつけることができました。バスを借り上げて被害の大きかった地域の小学生を招待したり、こちらからウサギやモルモットを連れて行って触れ合ってもらったりした際、緊張ぎみだった子どもたちが見せてくれた笑顔は忘れられません。動物園の存在意義の、原点に触れた思いでした。

 動物園はレクリエーション施設ですが、単なる遊び場ではありません。動物を身近に感じ、能力を知り、生態を学んでいただく教育の場としての役割を持っています。旭山動物園等で話題になった「行動展示」という言葉をご存知でしょうか。動物園には子どもの時以来ごぶさたという方の中には、今でも猛獣を狭い檻で展示しているイメージをお持ちの方がいらっしゃるかもしれません。しかし今では、動物がいきいきと暮らしていることが、来園者にとっても大きなメリットだという考え方が、動物園の新しい常識になっています。

 広さや予算に限りはありますが、本園ももちろん例外ではありません。10年前にリニューアルした猛獣舎では、ライオン、スマトラトラ、ホッキョクグマが、生息地の環境を再現した広いスペースでのびのびと動き回る姿を見ることができます。ホッキョクグマとカバの水中での行動が、ガラス越しに見られるプールも自慢です。また、サバンナの環境をイメージして造成されたアフリカ園では、ゾウ、キリン、シマウマ、サイ、カバなどがゆったりと暮らしています。

ビジターセンターやセミナーで豊かな学びを

 動物園での飼育や展示を動物福祉という観点から見直し、環境を整えることを「環境エンリッチメント」と言います。現代の動物園が果たすべき役割には、レクリエーション、教育とともに研究と種の保存がありますが、「環境エンリッチメント」は、どの役割にとっても非常に重要です。

 本園は全国の多くの大学や機関と連携して、研究と繁殖に取り組んでいます。野生動物の生息環境は、近代化によって世界中で急速に悪化しました。今も広大な森林が失われ、温暖化が進行中です。多くの生きものたちが絶滅の危機に瀕している今、生息環境の回復とあわせて、生物を保護し、増やし、再び自然へ返す必要があります。そのためには私たち人間が、まず動物の行動や生態を学ぶことから始めなければなりません。

 ホッキョクグマは通常単独で行動し、繁殖の時期だけオスとメスが一緒になります。従って本園でも雌雄を別々に飼育・展示し、タイミングを見計らって会わせています。元々雌雄が常に一緒のサルやライオンはそうしますし、ハーレムを作る必要があるゴリラは、日本中から上野動物園にメスを集めています。

 大きさやにおいなど動物を丸ごと感じ、学ぶ場として動物園を活用していただきたいと思い、本園では様々な取り組みを行っています。2009年に開館した「ビジターセンター」では動物の剥製などを間近で見ることができますし、大学の研究者を講師に招いての「動物セミナー&園内ガイドツアー」を毎月開催しています。本物の動物や骨格標本などを見ながらお話を聞くことで、専門的な内容も分かりやすいと好評です。

 現在、本園の年間来園者数は50万人ほどです。東北での動物園の来園者数は、人口比率で見ても、関西などと比べてずっと低い水準にあります。私自身は動物の研究者でも専門家でもありません。しかし民間のサファリパークなどを除けば本園が南東北では唯一の動物園ということもあり、使命感をもって業務に取り組んでいます。大人にとっても豊かな学びの場である動物園に、より多くの方にお越しいただけるよう願っています。

シジュウカラガンが再び宮城の空に

 絶滅の危機に瀕していたシジュウカラガンが、再び日本に渡ってくるようになった、というニュースをお聞きになったことがあるでしょうか。実はこれは、30年以上にわたって本園などが取り組んできた、羽数回復事業の成果なのです。

 シジュウカラガンはカナダガンという種の亜種の1つで、ほほにシジュウカラに似た白い模様があるため、この呼び名がついたと言われています。昭和初期までは宮城県をはじめ日本各地に飛来していて、百羽もの大群も珍しくありませんでした。千島列島で繁殖して日本で越冬する群れと、アリューシャン列島で繁殖してアメリカ西海岸で越冬する群れがありましたが、20世紀初めの毛皮ブームの際、繁殖地で業者が放し飼いにしたキツネのえじきとなり、どちらも激減してしまいます。

 一時は絶滅したと見られていましたが、アリューシャン列島で発見され、まず米国が羽数回復事業に取り組みました。千羽や二千羽の規模にならないと「渡り」は安定しないと言われています。しかし米国は30年以上の歳月をかけて、現在は3万羽規模まで回復させました。本園の事業は1983年、宮城県の調査研究団体「雁(がん)を保護する会」と共に、米国から9羽の親鳥を譲り受けて飼育・展示することから始まります。

 当初は試行錯誤が続き、放鳥しても十分な成果は得られませんでした。その後ロシアもこの事業に加わったことから、日本から運んだ種鳥から増えた鳥を千島で放すなどした結果、少しずつ「渡り」をするシジュウカラガンの数が増え始めます。2006年から翌年にかけては17羽の放鳥個体が日本で確認されてようやく事業が軌道に乗り、渡り鳥の羽数回復事業の、わが国では初めての成功例となりました。

 放鳥活動は終了しましたが、もちろん本園は飼育・展示を続けています。回復は順調で、この冬、宮城県では100羽、全国では200羽を超える飛来が確認されました。現在は国内の9つの園・館でシジュウカラガンが飼育されています。

動物園は海外に開いた窓

 シジュウカラガンを絶滅の淵に追いやったのも、それを保護し、羽数を回復させたのも人間です。私は苦労を重ねた前任者から事業を引き継いだに過ぎませんが、羽数回復事業に携わったことで、あらためて動物と人間の関わりや環境問題について深く考えました。本園では現在、環境問題の啓発活動に力を入れています。園長も述べた通り、動物園は研究、教育機関でもあり、希少になってしまった種の保存に責任を負っています。大学等と連携することで、こうした活動でも成果を上げて行きたいと考えています。

 本園に近い八木山小学校や向山小学校では、子どもたちにゾウやカバの糞から堆肥をつくって野菜を育ててもらい、それをまた動物たちの餌にする、という勉強をしてもらっています。しかし子どもたちだけでなく、大人の方にも日頃から動物たちを身近に感じていただき、自然破壊や乱獲、温暖化などによる、生きものたちの危機と環境問題への関心を高めていただきたいと願っています。

 また、実は動物園は「海外に開いた窓」であるとも言え、そこから外国のようすを見たり知ったりすることもできます。海外の珍しい動物が飼われているだけでなく、共同研究や種の保存事業など、様々な国際交流が行われているのです。

 本園は、アフリカの島国マダガスカルの首都アンタナナリブにある、国立チンバザザ動物園と提携を結んでいます。マダガスカルは環境破壊や政治・経済の問題を抱えていて、人間だけでなく動物たちにも支援が必要です。現在はこちらから専門家を派遣し、飼育技術の指導や小学校での環境教育にあたったり、向こうから研修員を迎えたりしている段階ですが、将来はマダガスカル固有の動物を受け入れるなど、さらに関係を深めたいと考えています。

 市民の皆さん、どうぞ本園を訪れて、やすらぎや癒しを感じていただくとともに、動物たちから環境問題や海外の状況について学んでみてください。心からお待ちしています。

 

(取材=2012年2月16日/仙台市八木山動物公園 管理事務所にて)

研究者プロフィール

仙台市八木山動物公園
園長
遠藤 源一郎 

(えんどう・げんいちろう)1952年宮城県生まれ。早稲田大学法学部卒業。1978年より仙台市職員。地域振興、市民協働など、主にまちづくり事業に携わってきた。2007年より副園長として八木山動物公園に勤務し、2008年より現職。

仙台市八木山動物公園
飼育展示課普及調整係長/獣医師
釜谷 大輔 

(かまたに・だいすけ)1971年愛媛県生まれ。酪農学園大学酪農学部獣医学科(現・獣医学群獣医学類)卒業。2001年より仙台市職員。2005年より獣医師として八木山動物公園に勤務し、2011年より現職。

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