研究者インタビュー

悲しみ嘆くことさえ、まだできないでいる子たちに寄り添って

  • LINEで送る

悲嘆は心の健康を回復するための自然な感情

 東日本大震災では一度にたくさんの方が亡くなり、また行方不明になりました。家族を失って強いショックを受けたり、被災者が身を寄せ合って暮らす避難所で周囲に遠慮するなどして、十分に悲しみと向き合ったり表現したりできなかった方もたくさんいらしたことでしょう。

 身近な人が亡くなった時に悲しみ嘆くのは、人間として自然な感情です。しかしそうした感情を、環境や社会的な立場などの事情から十分表に出すことができず、苦しみを深めてしまう人は少なくありません。中でも子どもは、「いつまでも泣くな」「みんな悲しいけど我慢しているんだ」といった言葉に強く反応し、自分の氣持ちを抑え込んでしまうことがあります。葬儀や最後のお別れの時のことが記憶からすっかり消えてしまうことや、自分を強く責める、攻撃的になるなどの行動が目立つようになることもあるのです。

 これは、人だけでなく愛着のあるペットや物を失ったときや、離婚や転職・転校の際にも起こり得ます。医療・看護の立場では、このグリーフ、日本語では「悲嘆」となりますが、これはマイナスの感情だけではありません。むしろ心の健康を回復するために必要な、大切なプロセスと考えます。泣いたり大声を出したりすることを自分に禁じている人に、そうした感情や行為を肯定することには大きな意味があるのです。この支援を「グリーフサポート」や「グリーフケア」と呼んでいます。

 グリーフサポートは、当事者が自ら回復するプロセスに寄り添い、見守ることです。治療行為ではありませんし、癒すことを目的としているわけでもありません。しかし米国では医療保険の適用対象になっている一方、日本ではまだ十分には知られていないのが実情です。

 私たちは2000年から、医療従事者を中心に「仙台グリーフケア研究会」というグループを作ってこの活動に取り組んでいます。震災にあたっては、3月19日から電話とメールで心の相談を開始しました。私はメールへの返信を担当しましたが、深刻な訴えにどう返事を書くべきか悩み、1通のメールに半日を費やしてしまうこともありました。

 会では今、私どもの大学を会場に、震災遺児に限らず大切な人を亡くした中学生以下の子どもたちを対象としたグリーフサポートを行っています。「ワンデイプログラム」といって、現在は月1回の開催です。毎回30人前後もの子どもたちと保護者が参加しますが、すべての子に、サポート役であるボランティアスタッフが一人ずつつきます。一見、ただ一緒に遊んだりおしゃべりしたりしているようにしか見えないかもしれません。しかしそうして信頼関係を築くうちに、子どもたちはよそでは話せなかった自分の氣持ちを話してくれたり、感情を表現してくれたりするようになるのです。

ワンデイプログラムの様子

子どもの支援に欠かせない家族の支援

 もちろん、心のケアを必要としている子どもたちは震災以前からたくさんいました。私たちは亡くなられた方や遺族に配慮して、自殺ではなく「自死」という言葉を使うようにしていますが、たとえば親が自死した場合、子どもたちはその第一発見者になってしまうことも多いのです。

 子どもに限らず、自死遺族のケアを行う仕組みは、今はまだ十分とは言えません。それでも2006年の「自殺対策基本法」成立後は少しずつ理解が進み、遺族が集まって体験や氣持ちを話し合う集まりが、各地で開かれるようになりました。この活動は「わかちあいの会」と呼ばれることが多く、私たちの研究会では2006年から始めています。2009年からは、自死遺族に限らず大切な人を亡くされた方々にお集まりいただくようになり、震災を経た今は、岩沼、石巻、気仙沼でも開催しています。

 家族の自死という現実を受けとめたり、自分を責め過ぎないようにしたりすることは、大人にとっても簡単なことではありません。子どもの場合は特に困難で、子どもに特化したグリーフサポートが必要ですが、適切なプログラムもなく、継続的なフォローもほとんどなされてこなかったのです。このため私たちの研究会では、先ほどお話した子どもたちが対象のワンデイプログラムを、2010年の12月から始めていました。

 東日本大震災で中断しましたが、昨年5月に再開すると、7月からは震災で大切な人を亡くした子どもたちも参加してくれるようになりました。今は震災遺児とそれ以外の原因で大切な人を亡くした子どもたちが、それぞれ10人前後参加してくれています。

 子どもたちとは別室で保護者のためのプログラムも行っていて、こちらにも10人前後の参加者があります。「子どもに連れられてきましたが、参加して良かったです」とおっしゃる方もあり、子どもたちの支援には、その最大の支援者である家族を支援する仕組みが欠かせないと実感しています。

 こうしたグリーフサポートにあたるボランティアスタッフを、私たちは「ファシリテーター」と呼んでいます。ファシリテーターを務めるには知識を持ち、トレーニングを受ける必要があり、震災以前のワンデイプログラムのスタート時には、その8割を学生たちが占めていました。しかし震災後に面接したところ、自分の氣持ちが安定しないため、「再開してもファシリテーターはできない」と言う学生も少なくありませんでした。

 震災当日、私は福島県本宮市の実家に、妻子と一緒に帰省していました。交通が遮断されて戻れなくなり、原子力発電所の事故のため、子どもを外に出していいものか悩みながら1週間ほどを過ごしました。仙台に戻ると学生の安否確認に追われましたが、全員の無事が確認でき、ご家族にも死者はありませんでした。しかし幼なじみや知人を失うなどしてショックを受けている学生も多く、ファシリテーターはできないという者がいても無理はないと思いました。

広まってほしいグリーフサポートの知識

 私は看護師としてのキャリアを精神科でスタートさせ、主に子どもと若者を対象とする現場に、10年間勤務しました。発達障害をもつ子どもたちに出会ったことから大学院で専門的に勉強するようになり、心理学の「応用行動分析」が、そうした子どもたちの状態の改善に有効であることを学びます。

 応用行動分析とは「人の内面的な部分ではなく、外部の環境要因を変化させることで、行動を変容させる」というもので、ごく簡単に言うと「行動に着目して、良いところをたくさん見つけてほめる!」ということです(笑)。これを自宅でも保護者に実践していただくことで、いろいろな問題が解決できることが分かったことから、親御さんにも勉強していただいて効果を上げました。

 一方、病院は患者さんが治ることを目的にしており、死を話題にしたり考えたりはしにくい場所です。私もグリーフサポートに本格的に関わるようになったのは、この大学に来てからです。しかし今回の震災を経て、今はグリーフサポートの意義を確信するとともに、広める必要性を強く感じています。

 保護者を支援し、親御さん自身に学んでいただく有効性については、発達障害支援でもグリーフサポートでも変わりません。しかしこの震災では、たとえば被災地で学習支援ボランティアにあたっている方々も、子どもたちの悲しみにどう向き合えばよいのかという問題に直面しています。学校の教員、医療や福祉の関係者など、グリーフサポートについて学んでいただきたい方はたくさんいますから、今は機会をいただければ可能な限り出かけて行って、お話をさせていただくようにしています。また現在は、ファシリテーターの養成にも力を入れています。グリーフサポートを学びたいという市民の関心は高く、私たちの研究会のファシリテーター登録者は300人を超えました。

 人が近しい人を失って悲嘆に暮れるということは、昔からありました。かつては血縁や地縁のコミュニティがそうした人を支えていましたが、現代はそれが難しくなってしまっています。グリーフサポートの知識と意義が多くの人に共有され、コミュニティと医療の間を結ぶようになることで、コミュニティが再びそうした機能を回復するよう願っています。
 

(取材=2012年8月20日/仙台青葉学院短期大学 研究棟4階 佐藤研究室にて)

研究者プロフィール

仙台青葉学院短期大学 看護学科 講師
専攻=精神看護学
佐藤 利憲 先生

(さとう・よしのり)1975年福島県生まれ。専門学校を卒業後、1998年より順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院に看護師として勤務。2010年、山形大学大学院医学系研究科(看護学専攻)修了。修士(看護学)。同年より仙台青葉学院短期大学看護学科にて助教。2012年より現職。「仙台グリーフケア研究会」理事。 

  • LINEで送る