研究者インタビュー

正確な社会調査で不平等の問題に挑む

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「言葉による回答」もコンピュータで分析

 私の研究スタイルは「計量社会学」といわれます。調査と統計分析を主要な研究手段としてきました。統計の対象は個人ではなく集団ですし、基本的には数字の世界です。しかし、そこから社会の仕組みや人々の心を読み取って言語化していくわけです。

 私のテーマは大きく言えば二つあって、一つめは「社会調査」の方法そのものの研究です。皆さんも、マスコミによる世論調査や、企業が行う市場調査はご存知でしょう。これらは、知りたい集団全体から一部の人を選んで調べる「標本調査」です。一方で国が行う国勢調査は、国内に居住している人全員を対象としますから「全数調査」と言います。

 全数調査には巨額の費用がかかりますし、調査する数が増えるほど、調査や集計の過程でミスが起きやすくなります。これに対して標本調査は、適切な人数を適切な方法で選び、調査や集計の方法を工夫すれば、かなり正確に全体の様子を知ることができるのです。「どの程度確かと言えるのか」は数学的に明らかにされていて、皆さんも学校で確率や統計の基礎を学ばれたかもしれません。

 その集団の特徴を、たとえば平均値や比率などの数値で表すことができれば、集団間の違いや、年ごとの変化を把握するのに便利です。これが統計学の基本で、「記述統計学」と呼ばれています。これに対して、先ほど述べたように一部の標本から全体の数値を把握しようとするのが「推測統計学」です。

 社会調査では、対象の方に話をしていただいて聴き取りをすることもあれば、調査票を用意して、調査員が回答を記録したり、ご本人に記入していただいたりもします。電話やインターネットなど、他にもいろいろな方法があります。また、何をどのような順番で尋ねるか、質問文や選択肢をどうするかなどによっても、結果は大きく変わってしまいます。正確に調べるための方法そのものが、重要な研究課題なのです。

 たとえば調べたい内容の中には、選択肢を設定したり数値化したりすることが困難で、その人自身の言葉で語っていただかなければならないものもあります。こうした文章や会話を、データとして処理したり統計分析したりすることが、私の中心的なテーマの一つでした。コンピュータの処理能力が向上した近年は、キーワードを拾うだけでなく、その意味や文脈を読み取ることで、言葉をかなり正確に扱えるようになっています。

 しかし、文章や会話が全体としてもつ特徴、たとえば意味、含まれている矛盾、微妙なニュアンスなどをとらえるというところまでは到達しておらず、まだまだ試行錯誤が必要でしょう。

原先生の主な著書

「パートタイム正規雇用社会」を目指せ

 マスコミなどで「格差社会」や「不平等社会」が大きな問題として取り上げられることが、ますます増えています。私の二つめの研究テーマは「社会階層と不平等」です。

 経済的な格差が同世代の中で、あるいは世代の違いによってあまりに大きすぎる、あるいは親の職業や経済力によって子どもの将来(機会)がほぼ決まってしまう社会は問題です。しかし社会的な不平等は、最近になって急に生じたわけではありません。状況を改善するためには、かつてと比べて今がどのくらい不平等だと言えるのかを数値化したり、そのデータに基づいて将来を予測したりすることが不可欠です。

 近代になってからでも、明治から第二次世界大戦の終結までと戦後では、社会のあり方が大きく変わっています。その中で経済学は、職業の違いによる、収入や保有財産の差に着目しました。社会全体で見て、所得や資産がどのくらい平等に分配されているかを、統計に基づいて数値化したのです。

 経済学が明らかにしようとした「保有の不平等」に対して、社会学は「機会の不平等」に着目しました。日本の社会は昭和30年代から40年代にかけての高度経済成長を経て豊かになりましたが、出自や学歴と職業の関係はどう変わったのかということが、重要な研究テーマになりました。

 1955年から10年ごとに行われている「SSM調査」は、この問題を考える上で非常に有益な社会調査です。社会階層、社会移動、職業、教育などに関する、継続的で信頼度の高い調査として、世界的にも高く評価されています。私自身も、この調査の実施と分析に関わってきました。

 かつては豊かさを分配し、社会全体に行き渡らせることが課題でした。しかし少子高齢化が急速に進む21世紀の現在は、避けられない負担の分配が最大の課題になっています。日本の人口を増やし、経済成長できるような政策を実行するべきだと言う人もいます。しかし将来の見通しが立ちにくい今の日本で、いくら結婚や出産を奨励しても、人口の増加は難しいでしょう。私は少子化という現実を受け入れた上で、社会全体で所得や仕事を分け合う方向が正しいと考えています。

 この点で、今一番の問題は、条件の劣悪な非正規雇用の増大です。景氣が多少よくなったとしても、非正規雇用のうまみを知ってしまった企業が、フルタイム正規雇用労働者の大幅増に転じるとは思えません。しかし、社会保険などの仕組みが整っている正規雇用は、人々が安心して働き、家族をつくろうと思えるようになるための基盤です。むしろ、既にオランダなどに例があるように、パートタイムであっても正当な条件で雇用するという「パートタイム正規雇用社会」を目指すべきではないでしょうか。これは、フルタイム労働者の多様な生き方にもつながるはずです。

様々な年代が学ぶ放送大学

 私は1945年の生まれで、SSM調査は私が10歳の時に始まりました。それからの10年ごとの結果の中に、私は自分のライフヒストリーを読み込まずにはいられません。これは実に感慨深いことであり、大きな喜びでもあります。

 私は新潟県長岡市の出身で、高校の先生に勧められて東京の大学に進んだのが、1964年のことです。東北のような集団就職はありませんでしたが、上京する急行列車には、県境を出るまで、駅に停まるたびに東京で働こうとする中学卒業生たちが次々と乗り込んできて、ホームでは家族や知人が見送っていました。そんな時代だったのです。

 大学でも先生との出会いがあって、卒業後は研究職を目指します。研究には統計処理や分析が欠かせませんが、私が大学院に入った当時はコンピュータも電卓もなく、手作業による集計と計算に追われました。

 手回し式計算機から電動回転式へ、そしてフィラメントで数字を表示するお化けのような電卓へ。新たな機械が導入されるたびに操作の習得に努め、大学の大型計算機が利用できるようになると、調査データや計算プログラムをパンチカードに打ち込んで持ち込みました。1週間待たされたあげくに「エラー」という結果が出てはやり直すことの繰り返しで、期待した結果が出せるようになるまで、1年くらいかかったでしょうか。日本の社会科学におけるコンピュータの導入期に、私たちは先導的な役割を果たすことができたのではないかと思っています。

 私は今、放送大学で宮城学習センターの所長を務めています。放送大学は、テレビやラジオの放送とテキストなどを用いて学ぶ、通信制の大学です。大学卒業資格を得るだけでなく大学院で学ぶこともできます。宮城学習センターには、現在約2,000名が在学しています。学部生は30代から40代、大学院生は40代から50代がもっとも多くなっていますが、その他の年代の方も決して少なくありません。いろいろな経歴をお持ちの方々が真剣に学んでおられる姿に接することで、私も大いに視野を広げることができました。本当に感謝しています。

 センターの建物は、東北大学の片平キャンパスにある、築90年を経た貴重な歴史的建造物を利用しています。講義のビデオを視聴したり、実際の講義を受けたり実習をしたり、教員に学習相談に応じてもらったりすることができます。

 一般市民の方々、在学生、教職員がお互いに交流する「放送大学の集い」も開いています。昨年度は6回、うち4回は気仙沼市や石巻市などに出張し、ミニ講義や放送大学の説明会も行い好評でした。「歯ごたえのある教養」が、宮城学習センターの合言葉です。科目単位での受講も可能ですから、興味を持たれましたら、どうぞ放送大学での学びをご検討ください。

(取材=2014年2月21日/放送大学宮城学習センター3階・所長室にて)

研究者プロフィール

放送大学 特任教授・宮城学習センター所長、東北大学 名誉教授
専攻=社会学
原 純輔  先生

(はら・じゅんすけ)1945年新潟県生まれ。東京大学文学部卒業。東京大学大学院社会学研究科博士課程中退。横浜国立大学、東京都立大学で講師、助教授、教授を務め、1994年より東北大学文学部教授。東北大学大学院文学研究科長・文学部長を経て、2009年より現職。著書に『社会調査』『社会階層と不平等』(ともに放送大学テキスト)、『社会階層─豊かさの中の不平等』(英語版、韓国語版も)など。

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