名著への旅

第31回『期待と回想』

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 今年7 月20 日に亡くなった思想家、鶴見俊輔が対話を通じて語り起こした自伝である。晶文社より1997 年出された上下巻をまとめて文庫化したものである。

 鶴見俊輔は多くの著作を残した。かれは純化し、体系化された「思想」を回避する「ニセ科学」を探求しようとした。鶴見の仕事の全体像は曖昧で、断片的で、場当たり的であり、企図した通りの「不定形」さを獲得しているかもしれない。しかしそこには「現状の逆を突く」「確定したものの意味をズラす」という方法が貫徹されている。いわば「不定形の体系」へと到達しているのだ。

 656 ページと分厚いが、ゆるやかな語り口のため比較的読みやすいように思う。鶴見俊輔の導入として、また筑摩書房から出ている全集の副読本としても、優れている。

(寺)
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